米ジョンソン・エンド・ジョンソンの医療用医薬品日本法人、ヤンセンファーマ株式会社(住所: 東京都千代田区、社長: 関口 康)は、2005年1月に全国のがん治療医295名(外科医145名、内科医150名)を対象にがん患者の緩和医療に関する意識調査を実施しました。この結果から、がん治療医は、緩和医療に関心が高いものの、がんの痛みに用いる薬剤の理解が不足しているため、患者への対応が不十分なことがあり、緩和医療に関する教育機会の充実を望んでいることがわかりました。
■ がん治療医97.3%が緩和医療に関心あり、9割以上の患者の痛みを抑えられる医師は4人に1人
「緩和医療」、「緩和ケア」に関心があるかをたずねたところ、「非常に関心がある(54.9%)」、「関心がある(42.4%)」をあわせて97.3%の医師が「関心がある」と答えました【グラフ1】。回答者が勤務する施設において緩和ケア病棟が設置されているのは22.7%、現在導入検討中が12.9%、緩和ケアチームが結成されているのは28.1%で、導入検討中が22.4%という結果でした【グラフ2】。がんの症状の中でも患者にとって苦痛が大きい「がん疼痛(がんの痛み)」に関しては、「担当している患者の90%程度除痛できている」と回答した医師が24.4%と、ほとんどの患者の痛みを抑えられている医師は4人に1人という結果でした。また、「除痛できている患者が50%程度以下」という医師が22.8%いました【グラフ3】。
■ 医師の10人に1人は、医療用麻薬が精神依存を引き起こすと誤解して使用を躊躇
がんが恐れられる理由の一つに強い痛みがあります。がん患者の3割以上、末期では7割に強い痛みが伴います。WHO(世界保健機構)は1986年に「WHO方式がん疼痛治療法」で、がんの痛みの強さに応じた鎮痛薬の段階的な使用を推奨しています。そのうち強い痛みに対しては、モルヒネやフェンタニルなどの医療用麻薬が用いられます。また、「鎮痛目的に医療用麻薬を適切に用いることで精神依存は起こらない」とWHOから報告されています。
今回の意識調査では、「がん疼痛に『医療用麻薬』を使用することで精神依存はどれぐらいの割合で起こると考えていますか」という質問に対して、4人に1人の医師は「10%以上の割合で精神依存が起きる」と考えていることがわかりました(「10%以上」~「80%以上」の合計26.8%)。また、そのうち11.2%の医師は、30%以上の割合で起こると回答しており【グラフ4】、医療用麻薬が精神依存を引き起こすという誤解が医師側にもあることがわかりました。また、「精神依存が理由で『医療用麻薬』の使用を躊躇することがありますか」という質問に対しては、「躊躇する」と答えた医師が9.9%(「毎回躊躇している(1.4%)」、「たまに躊躇する(8.5%)」)いました【グラフ5】。医師の10人に1人は、医療用麻薬と精神依存の関係についての理解が十分でないため、がんの痛みを抑える薬剤の使用に積極的になれないという状態が推測されます。
■ 精神依存のリスクがあると患者に伝える医師が4人に1人
「『医療用麻薬』の使用に際して、患者や家族から精神依存に関する質問を受けたことがある」医師は、77.9%(「よく質問がある(14.2%)」、「たまに質問がある(63.7%)」)でした【グラフ6】。「質問があった際、どうしますか」という問いに対しては、4人に1人(25.8%)の医師は、「精神依存のリスクがあると伝える」とし、「あいまいに説明する(3.4%)」、「自分は精神依存の不安があるが、患者には心配ないと伝える(8.1%)」、「自分も精神依存の心配はしていないので依存はないと説明する(59.0%)」という結果でした【グラフ7】。2004年6月にヤンセンファーマが一般市民を対象に行なった「がん疼痛に関する意識調査」では、およそ半数の人がモルヒネのイメージとして「中毒・依存症」をあげており、医師ならびに患者いずれの側にも多くの人に医療用麻薬に対する誤解があることがわかりました。今回の調査からは、患者や家族の「痛みをとるのと引きかえに、精神依存のリスクを負う」という不安に対して、十分な対応ができる医師は6割程度と推測できます。
■ 「医療従事者に対する教育・研修の充実」が「がん疼痛治療」と「緩和医療の発展」に重要
人口当たりの医療用麻薬の消費量は、日本は欧米諸国と比較して、10分の1~20分の1程度で、緩和医療の遅れが指摘されています。「今後、『医療用麻薬の適正使用推進』や『緩和医療の発展』には何が重要と思うか」という問いに対して、提示した項目のうち重要と思う3項目を聞いたところ、トップとなったのは「医療従事者に対する教育・研修の充実」(「最も重要(30.2%)」、「2番目に重要(18.0%)」)でした【グラフ8】。緩和医療への関心の高さと併せて、医師自身が教育機会の必要性を自覚していることが伺える結果となりました。
今回の意識調査結果に対して、WHOの薬物依存専門家会議委員を務める星薬科大学薬品毒性学教室教授の鈴木勉氏は、次のように述べています。「鎮痛目的に医療用麻薬をがん疼痛治療に適切に使用すれば精神依存を形成する心配がないことは科学的に実証されており、WHOも認めている事実です。痛みのある患者さんに対しては、痛みをとるか、精神的依存のリスクをとるかということではなく、痛みを抑えるのに必要な量の鎮痛剤を適切に使用することが必要です。」
また、日本癌治療学会理事長である慶應義塾大学医学部長の北島政樹氏は、「終末期医療を要する末期がんのみならず、再発がんにおいては種々の症状を呈するが、その中でも神経が侵されると頑固な疼痛に苦しむことになります。がん疼痛は主症状の70%を占め、患者QOLを大きく低下させることは周知の事実であります。わが国においても、18の横断的診療科から成る日本癌治療学会において昨年より緩和医療が一つの診療分野として認められています。さらに最近、がん疼痛管理を中心とした『Cancer Pain and Palliative Medicine』という雑誌も創刊され、益々緩和医療に関して注目が集まっていることは否定し得ない事実であります。 今後、本学会といたしましても緩和医療に関する臨床研究や教育研修を率先して行い、緩和医療の発展に貢献したいと考えています。」と、述べています。