ヤンセンファーマ株式会社が2017年6月16日、第18回欧州リウマチ学会(EULAR)2017で発表した調査結果から日本における関節リウマチ患者さんのうつ病の隠れた負担が浮き彫りになりました。1 調査対象となった患者さん500名のうち、うつ病と診断されたのはわずか5%であり、30%の患者さんがうつ病の可能性があるものの未診断でした。1
慶應義塾大学病院・リウマチ・膠原病内科講師 金子祐子氏は、「うつ病の過小診断は、関節リウマチを抱えながら生活している患者さんの転帰が不良になる傾向にあることが懸念されます。」と述べています。
生物学的製剤の単剤投与を受けた患者さんでは、非生物学的製剤で治療された患者さんと比較してうつ病の症状が発現する可能性が大幅に低くなりました。1 この相関関係は、疾患活動性の低下が関節リウマチ患者さんのメンタルヘルスに対してプラスの影響を与え、2 また生物学的製剤を早期的かつ積極的に用いることで疾患進行を遅らせ、症状を軽減するベネフィットを示したことが国際研究によって裏付けられています。3, 4
さらに、同氏は、「これらの調査結果は、関節リウマチを抱えながら生活している患者さんの精神的・身体的健康を評価することの重要性と同時に、日本の関節リウマチ患者さんがより生活しやすく、QOLを改善できるよう、生物学的製剤等による早期治療が必要であることを示しています」と語りました。
関節リウマチは、主に手足の関節に炎症を引き起こす慢性の免疫疾患であり、この疾患は重度の痛み、腫れ、硬直、さらに機能喪失を招く可能性があります5 日本で関節リウマチを抱えながら生活する患者さんは70万人以上と推定されています。6 最近の欧米での研究から、衰弱化に関連した健康負担の増加が浮き彫りになっています。7
以上
調査について1
この調査は、日本において関節リウマチを抱えながら生活している患者さんのうつ病罹患率を判断し、うつ病と一連の変数の関係を調べることを目的としています。関節リウマチ患者さん500名を対象に、抑うつ症状の有無と重症度を測定するための「患者健診質問票」(Patient Health Questionnaire:PHQ-9)を含む、インターネットによる調査が実施されました。調査には、患者さんの人口統計学的情報、スタンフォード健康評価質問票(Stanford Health Assessment Questionnaire:J-HAQスコア)の日本版を使用して評価した機能障害などの臨床的特徴や参加者の現在の治療に関する内容が含まれました。調査対象の患者さんの内、25名(5%)のみがうつ病と診断されていましたが、176名(35%)はPHQ-9のスコアがあり、うつ病の症状があることが示唆されていました。解析から、うつ病罹患率と若年(オッズ比OR:0.96)、高学歴(OR:0.60)、所得水準80万~160万円(OR:0.45)の負の相関が明らかになりました。うつ病との正の相関は、J-HAQスコアが高い(OR:1.99)関節リウマチ患者さんで認められました。生物学的製剤の単剤投与を受けた患者さんは、非生物学的製剤を投与された患者さんと比較して、うつ病を有する可能性が有意に低いことが示されました(OR:0.36)。この調査では、関節リウマチ患者さんのうつ病が過小診断、過小報告されるリスクがあることが明らかになりました。患者さんの年齢が若い場合、機能障害の程度が重い場合、あるいは治療計画に生物学的製剤が含まれずに鎮痛剤を使用している場合、うつ病を発現する可能性が高くなります。
関節リウマチについて
関節リウマチは、主に手足の関節に炎症を引き起こす慢性の免疫関連疾患であり、この疾患は重度の痛み、腫れ、硬直、さらに機能喪失を招く可能性があります。5 日本で関節リウマチを抱えながら生活する患者さんは、70万人以上と推定されています。6 このうちの3分の2(67%)の患者さんが中程度から重度の疾患活動性を有すると考えられています。5 関節リウマチの症状は、20歳から40歳で最も多く発現し、8 女性は男性の3倍多く関節リウマチと診断されています。6
1 スルアムシリ・R他 『慢性関節リウマチ患者におけるうつ病の過小評価』ポスター発表:第18回欧州リウマチ学会(EULAR 2017、6月16日、マドリード)
2 ストランド・V他 『慢性関節リウマチ患者における疾患活動性の低下に関連する精神衛生上の利点:文献システマチックレビュー』 ポスター発表:第18回欧州リウマチ学会(EULAR 2017、6月17日、マドリード)
3 カーティス・J、シン・J 『関節リウマチにおける生物学的製剤の使用:治療に関するパラダイムの今とこれから』 クリニカル・セラピューティクス2011年6月33巻6号679~707頁
4 カーレンバーグ・M、フォックス・D 『関節リウマチの治療法の進歩』 Hand Clin. 2011年2月27巻1号11~20頁
5 ミヤサカ・N 『日本における関節リウマチの治療動向:グローバリゼーションへの変化とその独創的イノベーション』 インフラメーション・アンド・リジェネレーション2011年31巻1頁
6 ヤマナカ・H、スギヤマ・N、イノウエ・E他 『健康保険組合およびIORRAコホートからの保険償還データを用いた日本の慢性関節リウマチの罹患率の予測と現在の治療法(I)』モダン・リューマトロジー 24巻1号、33~40頁DOI: 10.3109/14397595.2013.854059.
7 ストランド・V他 『慢性関節リウマチに伴う精神的負担は増加しているのか?』ポスター発表:第18回欧州リウマチ学会(EULAR 2017、6月16日、マドリード)
8 世界保健機関 『慢性リウマチ性疾患』http://www.who.int/chp/topics/rheumatic/enで閲覧可能、最終閲覧日2017年3月28日